企業や商品のイメージアップに「ピンクリボン」を利用するな


拝啓『グラマラス』編集長 様

創刊3周年記念乳がん撲滅企画『10ウーマン』拝見いたしました。
乳がん患者のひとりとして、誠意を持って雑誌を拝見しましたが、残念ながら有効なピンクリボン運動であったとは評価できず患者の気持ちを踏みにじられたように感じ、遺憾に思っております。

乳がん、社会貢献、ましてやヌードを企画した以上、批判をお受けになる覚悟はおありの事と思います。貴誌は今後も、乳がん撲滅キャンペーンを行うとの事ですので、乳がん患者の率直な感想を送らせて頂きたく投書いたしました。


◆「ヌード」とは、乳がん患者がもっとも神経質になるテーマです

乳がん治療時に患者が必ず越えなければならないもの、それは乳房の一部切除・全摘出です。
身内や知り合いに乳がん患者がいなくても知識として「乳がん患者が手術後、温泉を楽しめなくなった。患者達で勇気を持って温泉に入った」という話しを聞いたことは無いでしょうか。

乳がん患者にとってヌードとは一番神経質になってしまう、ならざるを得ない問題なのです。

私自身07年に乳房温存手術を受けました。
私の乳房には手術の傷があります。夏の手術で傷口がどうしても開いてしまい、一ヵ月後に縫合手術をしました。手術で乳首は取れ、また新しい乳首ができてはきたのですが、普通の形よりは大きいです。そして左の乳房だけいつも熱をもったようで、固くなっています。
片方を乳房を切ったので左右のバランスがどうしても悪いのです。
またのこった乳腺にがんが残らないよう、放射線をかけました。
放射線を受けた乳房は四角い形に日焼けしたようになっています。
放射線をかけたあとの乳首は一部白く、また日焼けの部分が残って黒い点のようになっている部分もあります。

長く描写してしまいましたが、ようするに、
わたしの大切なおっぱいは治療により、厳しい姿になってしまったのです。
私だって毎日、乳房の事を考えているわけではなく、仕事もし、趣味も楽しんでいます。
が、健康診断のたびにみる、同僚たちの健康な乳房を見るととても悲しくなります。
そんな気持ちで暮らす私にとって、選ばれた女優たちの裸体はまぶしく、辛いものでした。

今回の企画はいまだ乳がんになっていない若い読者に向けられたもので、私たち発病してしまった読者の気持ちなど置き去りなのでしょうか。
それとも「この美しい裸体を失わないために検診に行こう」ということなのでしょうか。

◆グラマラス読者達こそリスクにさらされている

昨年、テレビや本で多くの人の心を動かした長島千恵さんは、24歳の若さで乳がんにかかり
闘病を続けながらもテレビの取材を受け、乳がん検診の大切さを訴え、旅立って行きました。
グラマラス読者である20代、30代の女性は、会社や区の健診警告を受ける前の世代です。
その読者たちに検診を受けるよう啓蒙するのが、女性雑誌の役割ではないでしょうか。
残念ながら、『10ウーマン』では観月ありささんのみ、身内の乳がん体験をもとに検診をうながす発言をしていますが、あとのモデルや写真をとった蜷川実花さんからは「乳がん撲滅」のメッセージをまったく感じられませんでした。
お揃いのピンクのTシャツをして、うさぎのポーズ。
乳がん治療で苦しんでいる人がいるなんて、考えたこともないでしょう。

乳がんは早期発見すれば90パーセント治る病気です」と、よく耳にします。

冗談ではありません。

手術で、傷が残ります。たいせつな乳房が失われます。リンパを切除します。運動障害が残る人もいます。後遺症で胸が痛み、手がしびれ、浮腫もおきます。抗がん剤放射線、ホルモン療法の副作用があります。治療中は妊娠できません。
乳がんと過酷な闘いをしている人がいることを知って下さい。そして、雑誌のPR、企業のイメージアップにピンクリボン運動を利用しないでください。